06 9月 2015
第10回 涼を呼ぶ夏の風景
みやじまなおみ
連日35℃を超える東京サウナを抜け出し、先日、イベント取材のため北海道・夕張に行ってきました。イベントのクライマックスは花火です。火の粉をかぶるほどの近さで次々と打ち上げられる尺玉花火は迫力満点、見ごたえたっぷり。カラッとした北海道の夜空を美しく彩り、1000人以上の参加者からは歓喜の声とためいきが上がっていました。
それにしても、毎日暑いです。
気候変動にともない、日中はもちろん、夜もクーラーなしではいられない日が続き、電気料金もうなぎのぼりに。北海道でも30℃を超え、地元のカメラマンさんによれば「北海道では決して見ることのなかった夏のイヤ~な虫も姿をあらわすようになった」とか。ブルッ…。
「俺たちが小学生のころは、こんなに暑くなかったよな~」「早く冬がこないかな~」と連日のようにこぼす夫。
たしかに、あの頃はクーラーだってなかったのに、暑さもこれほど苦にはならなかったような…それは子どもだったから? かもしれませんが、暑さをつかの間忘れさせてくれる夏の風物詩のおかげで、夏はむしろ待ち遠しい季節でした。
ちょっと思い出すだけでも、かき氷、スイカ、盆踊り、金魚すくい、打ち水、夏休みの早朝ラジオ体操など、暑さの中にも涼を感じる夏の風情がたくさんあります。
特に、汗だくになって遊んだ後、頭のてっぺんまでシャキーンとなるかき氷は最高! かき氷といえば赤いイチゴシロップ、緑のメロンシロップ、練乳が定番ですが、私はカルピス派でした。よく考えてみればただの凍ったカルピス…でも、氷を削るひと手間を加えることで「夏のぜいたくなおやつ=特別なもの」という感覚だったのでしょうね。
自分で削って自分の好みの味に仕上げるつくり方も、大人へのステップといったら大げさですが、平たいアルミカップで氷をつくり、製氷機のツメをガシッと喰い込ませて手回しでシャリシャリ氷を削っていく過程がなんとも楽しかった記憶があります。
スイカもまた、欠かせない夏の味のひとつです。たらいの氷水で冷やした丸ごとスイカを切り分ける母のまわりを兄妹3人がいつも取り囲み、その手元を一心に見つめていました(もちろん、大きいのを自分が食べるためです!)。
そして、掃き出し窓に並んで腰かけ、足をぶらぶらさせながらすいかをほおばって、種は庭へ向かってピュッとひとふき! 今、思い返すと本当に懐かしい夏の風景です。
ここでは花火もよくやりました。夏はほかの季節に比べて、家族と一緒の時間がより長かったような気がします。
涼を呼ぶ夏の風景といえば、ほかにも風鈴、よしず、すだれ、蚊帳などを思い出します。そうそう、蚊取り線香を入れる豚の陶器もありました(笑)。どれも和室に似合うものばかり。時代とともに間取りが変わり、今では和室のある住宅も少なくなりましたが、お客様にお出しする水ようかんや麦茶だって、畳の部屋だからこそ趣があったんだなあと思います。
窓を開けると聞こえてくる蝉の声に耳を傾けながら、自然に寄り添い、時間に追いたてられることなくゆったり過ごす夏の一日。和室というだけでせわしない気分から解放され、心が落ち着くのも日本人だからこその感覚なのでしょうね。
ここ数年は「日本人らしさを取り戻そう」という風潮もあり、住宅も“原点回帰”ではありませんが、あらためて和室のよさが見直され、木目や畳の美しい、和心が育つ環境が今よりもっと増えてくれたらと思います。
みやじま・なおみ miyajima naomi
主婦ライター。有名人・著名人のインタビュー原稿を請負うほか、編集ライターとして40冊近い書籍の執筆に携わる。神奈川県横浜市の一戸建てで、家族5人、昭和40年代を過ごす。