15 6月 2015
第3回 クローズドなモノづくりに未来はあるか?
藤本修
久しぶりのガラケー
中国出張の時にスマートフォンをホテルに忘れてしまいました。運良く見つかったので郵送を頼んだのですが、バッテリーの付いたものは国際法の関係で送れないらしく、結局次回行く時に受け取ることになりました。
その間携帯電話がないと不便なので、2年前まで使っていたガラケーを復活させて急場をしのいでいます。
久しぶりにガラケーを使って思うのは「なんでもできるけど、なにもできないよくできた機械だなぁ」ということです。
なんでもできるけど、なにもできない
ガラケーは、電源を入れてから切るまで勝手に電源が落ちたり、なかのソフトに不具合が出て使えなかったり、起動が怪しかったり、電池を異常に消耗したりすることはほとんどありません。
最近のスマホは随分マシになりましたが、ガラケーほどの信頼性はまず望めませんから、改めて「よくできた機械」だとしみじみ思います。
ただし、自分好みに自由にカスタマイズすることはほぼできません。新しいSNSのアプリをダウンロードしたり、絵画の画集をダウンロードしてインストールしたりはできません。
これって何かに似ていませんか?
昔そこそこの会社にあった事務処理に特化したオフィスコンピュータ(オフコン)とパーソナルコンピュータ(パソコン)の関係に似ていると私は思うのです。
クローズドとオープン。プラットフォームの違い
ガラケーやオフコンは、クローズドプラットフォームで、専用機能に特化することで信頼性を手に入れた機械です。中に入っているソフトも専用設計ですからそうなります。
対してスマホはアンドロイドとiOS、パソコンはWindowsとiOSの二強でほぼ市場が占有されていますが、そこで使えるソフトは有料無料を合わせて星の数ほどあります。
オープンプラットフォームとし、ソフトをつくる参入障壁を非常に低くしたことで、ユーザーの望むカスタマイズがより安く、より便利に、よりパーソナルに最適化することがだれでも簡単にできるようになりました。その結果、ガラケーやオフコンは市場から駆逐されていったのです。
不安は大きい。でも閉じてはいけない。
私たちの住宅業界はいま、大きな転換期に向かっています。
さかのぼってみると、【高度経済成長—住宅不足—住宅メーカーの勃興—大手建材メーカー主導の家づくり—設備性能の向上—人口と世帯数の減少—人類がこれまで経験したことのない少子高齢社会—ユーザーの指向性の変化—16%超の空き家率—住宅が要らない時代へ】と、従来の家づくりの方法論が通用しない時代がすぐそこまで来ています。
不安になるのも無理はありません。
ただ実際には、景気や住宅市況の盛衰は地域差があるうえ、経済には強い粘性があり、ゆっくりゆっくりと変わるのでなかなかピンとくることはないでしょう。
確実に言えるのは「私たちのモノづくりもガラケーのようになってはいけない」ということです。
いまのやり方に固執して狭い世界のなかでクローズドなモノづくりをしていたのでは、黒船のように新しいスキームが来た瞬間あっという間に売れなくなってしまいます。
10年後の工務店の姿とは
ちょっと面倒くさい言い方をすると、モノづくりの視点をつくり手から使い手へ、要は工務店から住まい手へと転換して、広く業界内外の企業と協業して「住む人により良い生活をしてもらうためのプラットフォームとして住宅がある」という定義を構築する必要があると思います。
自分の会社や知っている範囲だけの総合知だけでモノづくりをするのではなく、外部の企業や住まい手を巻き込んでの集合知に転換していくことができるかどうかが勝負の分かれ目になるような気がします。
住宅は単独では成立しないものです。
設備、家電、照明、カーテン、インテリア、家具、小物、雑貨、食器、リネン、洋服、靴、外構工事、庭…etc。こうしてみると住宅って、人の生活に必要なモノすべてに関わる企業とコラボレーションできる可能性があると思いませんか?
私は、建築業以外の企業とあたり前のように協業する工務店が10年後のスタンダードになると思っています。
藤本修 Osamu Fujimoto
アンビエントホーム代表
アンビエントホールディングス代表
ハウス・イン・ハウス代表
大手ハウスメーカーでの営業を経て、1998年に香川県高松市に工務店・アンビエントホーム設立、高気密・高断熱なデザイナーズ住宅に取り組む。2003年からは、そのノウハウを全国の工務店に提供する住宅FC・アンビエントホームネットワークを主宰。2007年に設立したCRMでは、顧客管理システム「リレーションマネージャー」、温熱・省エネ統合計算プログラム「エナジーズー」を販売。2013年には断熱リフォーム事業のハウス・イン・ハウスを立ち上げた。現在は工務店の指導・講演で全国を飛び回っている。