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24 4月 2015

第1回 トラブル対応であらわになる「現場の裁量権」

 藤本修
 『新建ハウジングプラスワン』の誌面上でこれまで11年間にわたり連載を続けさせていただいている藤本修です。このウェブ上では、工務店経営者としてのとりとめのない雑観・雑感(ときには私的なことを含むかもしれません)をつづります。軽く読み飛ばしていただけると幸いです。
JALとANAの違いを体感した
 複数の会社を経営している関係で日々出張をしている身なので、毎日が旅のような生活をしています。おかげで年間かなりの回数飛行機に乗りますが、トラブルにも多々遭遇します。
 最近こんなできごとがありました。中国出張の際にチケット取り扱いのミスでJALに乗れなくなり(私の認識不足が原因です)、ANAに助けてもらいました。内容は書き出すととりとめもないので割愛しますが、そこでこんなことを感じました。
 現場の裁量権が企業の社風を決め、トラブル対応のときに大きな違いが生まれるのではないか、と。
 JALは現場での裁量権が少ないように感じられ、いま起こっている問題を訴えてもルール遵守をオウムのように繰り返すだけ。これでは現実に困っている人にとっては、いくら丁寧な対応をされても何も解決せず、意味がありません。
 顧客対応に限ると、破綻前と比べて格段に丁寧になっていますが、トラブル対応は官僚的で融通がきかない感があるのは否めない気がします。
 それに比べると、ANAには現場に大きな裁量権がある、と感じました。トラブル対応時にもルール一辺倒ではなく、顧客の困りごとにいかに対応するかを仕事のメインテーマとしているようすが見受けられました。
 しかも、上司に判断を求めるのではなく、現場の末端がスピーディーにルールを曲げて(曲げる範囲は決まっているでしょうが)、顧客の困りごとをその場で解決してくれたのです。
違いはどこにあるのか?
 おそらくJALは、縦割り・横割りで個人の裁量権を限定して、セグメントを明確にして組織運営をしているのでしょう。大きな組織にとっては、ある意味普通の運営方法であると思います。
 ただ、この運営方法はスムーズにいっているときは何の問題もありませんが、ことトラブルが起こったときには組織の硬直した部分が馬脚をあらわし、スムーズな対応はできなくなります。
 「ルールをスムーズに運営する」ことが大前提であり、この大前提を達成するために「イレギュラーは起こらない」ものとしている。トラブルの範囲・イレギュラーの範囲を自分たちで限定し、それ以外の対応を放棄しているようにもみえます。
 トラブルは顧客の自己責任であり、運営上のミスも天変地異もルールの前には不可抗力だ、というように。
 これは何かに似ています。そう、3.11の福島第一原発の事故対応に似ています。
 「想定以上のトラブルがない」ことが前提で、「想定以上の天変地異はない」と勝手に決めていて、想定以上のトラブル・天変地異が実際に起こると対応できない。「絶対安全」がいきなりなくなる。
 誰がなんと言おうと、「絶対はない」ことは証明されていますが、組織運営のルールにはまだ色濃く残っている気がします。
 ANAは「トラブルがある」ことを前提に、顧客の困りごとを解決するスキームがあるのだと思います。顧客の困ったを解決することが仕事優先順位の第1位で、スムーズな日々の運営がそのうえに成り立っている。
 これを実現するためには現場に大きな裁量権がないといけないし、現場の判断力を信用しなければいけない。人を信用できる現場をつくるために、人を教育してトップから末端まで意思統一しなければいけない。そして日々検証して改良する不断の努力がいるでしょう。
私たちはどんな会社を目指すのか?
 じゃあJALがダメなのか?というと決してそうではなく、多分ANAが素晴らしいのでしょう。
 自分たちが今後どういう会社を目指すのか(エクセレントな顧客から賛賞される会社なのか、利益さえ上がればいい会社なのか)によって、組織運営の方向性は決まるのだと思います。
 皆さんはどちらを選びますか?
 

 
藤本修 Osamu Fujimoto
 
アンビエントホーム代表
CRM代表
アンビエントホールディングス代表
ハウス・イン・ハウス代表
 
大手ハウスメーカーでの営業を経て、1998年に香川県高松市に工務店・アンビエントホーム設立、高気密・高断熱なデザイナーズ住宅に取り組む。2003年からは、そのノウハウを全国の工務店に提供する住宅FC・アンビエントホームネットワークを主宰。2007年に設立したCRMでは、顧客管理システム「リレーションマネージャー」、温熱・省エネ統合計算プログラム「エナジーズー」を販売。2013年には断熱リフォーム事業のハウス・イン・ハウスを立ち上げた。現在は工務店の指導・講演で全国を飛び回っている。