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17 4月 2015

壊される民家「せめて記録に」 雪どけの白馬で解体開始

 歴史的建造物や文化財の専門家が4月14・15日、長野県神城断層地震で大きな被害を受けた白馬村堀之内地区の被災家屋を緊急調査した。
 呼びかけ人は長谷川順一さん(新潟県、建物修復支援ネットワーク代表)と渡邉義孝さん(千葉県、尾道空き家再生プロジェクト理事)。ヘリテージマネージャーの資格を持つ建築士や大工の有志10人、学芸員の有志3人が、被災した民家・土蔵に残る生活文化の痕跡調査や、歴史的な価値のある民具・道具の搬出調査を行った。

 うち、夫婦2人暮らしの柏原武幸さん(72)宅では170年の母屋と土蔵2棟を調査。いずれも解体が決まり、すぐにも業者との打ち合わせが始まるという。
 かつて、集落の寄り合いや行事で使用した漆器や着物、ひな飾りなどが収蔵されている土蔵は整理できないまま。解体直前の調査に柏原さんは「ずっと続いた家を私の代で壊すことになり先祖に申し訳ない。それでも専門家に見てもらい、この家が白馬に存在した資料がわずかでも残れば、いくらかは申し訳も立つ」と話した。

 また、一人暮らしの柏原明美さん(83)宅は200年とも300年ともいわれる古い民家。修復には巨額の費用がかかるため、やはり解体を決めた。「価値ある家だからつぶすなといってくれる人もいるが、このままにはしておけない。自分の力ではどうにもできない」と柏原さんは複雑な思いを話す。
 家を失ってもなお、この土地に住み続けたい思いは強いという。「そういう人がどれくらいいるかわからないけれど、公営住宅を建てるという話も聞く。ただ距離が遠かったり、家賃が高かったりすると入れない。村は多くの意見を聞いてほしい」と話した。

 同地区では雪どけとともに、公費による解体がいっせいに始まるところ。住宅再建も動き出す。その前に伝統的な建物の被害状況を調べ、地域固有の建築様式やその背景にある歴史・文化・生活を記録することが今回の活動のねらいだ。建物の写真撮影や実測を行って平面・立面・断面を書き起こすとともに、家主から過去の暮らしをヒアリング。民具・道具や調度品もできる限り救出する。

 呼びかけ人の渡邉義孝さんは、とくに地域の蔵を「その家の歴史そのものであるとともにまちや集落の記憶の集積」と評価。それが『復興』の名のもと公費で一気に取り壊されることを憂慮し「ならばせめて消えていく前に記録を残したい。それが5年後、10年後に必ず役に立つ」と説く。
 同じく長谷川順一さんも「地域の生活や歴史の資料が評価もされないまま一掃され消えてしまう状況。まさに文化遺産の喪失が起きかねない。解体の前に被災した建物の史実・痕跡を調べ、記録にとどめておきたい」とする。